誰かあの本を知らないか

読むことについて書かれた作文ブログ。

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文学

折口信夫『身毒丸』伝説、芸能

折口信夫『死者の書・身毒丸』中公文庫(1974.5.10初版発行) 学識とひとことで呼ぶにはあまりに該博な、直観と言ってしまうには射程がながくながく深度の深すぎる知性がある。そしてこの知性は、知性みずからによって観察され実験されつくされた感受性を備…

大杉栄『日本脱出記』「僕」の発生

大杉栄『日本脱出記』土曜社(2011.3.25初版第一刷発行) 筆者は本を読んでもわからないことが多い。菲才を恥じていると言えば健気にも聞こえるが、ようは無学なのである。それでも無学ながら考えて、それはひとつには、近代日本語じたいのもんだいなのでは…

三島由紀夫『近代能楽集』弱法師(よろぼし)

三島由紀夫『近代能楽集』新潮文庫(昭和43年3月25日発行) 能という演劇は、古典芸能の特徴で、どうしても衒学的なところがある。詩句の典拠を知らないと、なんのことやらさっぱり分からない。歌集、物語、説話、漢籍仏典、さらにその諸註釈書。そのうえで…

三島由紀夫『沈める滝』人工恋愛

三島由紀夫『沈める滝』新潮文庫(昭和38年12月5日発行) だしぬけで恐縮だが、筆者は文学がわからない。 小説、詩のたぐいがよくわからない。 それら創作が情感や情緒にかかわるものだとするなら、それらの欠落、未発達に由来して、言語芸術の門まえで立ち…

田中彰『明治維新と西欧文明』可能性の文体

明治5年(1871)12月23日、岩倉具視を全権大使とした一行が横浜を発っている。 本書は、この岩倉使節団の報告書である『特命全権大使米欧回覧実記』(以下、『回覧実記』)を中心に、若き明治政府の要人たちが遭遇した〈西欧文明〉が何であったかを説いたもの…

ツヴァイク『人類の星の時間』まばゆさの近代

シュテファン・ツヴァイク 片山敏彦訳『人類の星の時間』みすず書房(1996.9.30第一刷発行) 今となっては想像もつかないことかもしれない。 <近代>がきらびやかで、目も眩むほどまばゆく、洋々たる前途を望ませた時代が存在する。

ドナルド・キーン『明治天皇』老獪な韜晦

ドナルド・キーン『明治天皇』全4巻 新潮文庫(平成19年3月1日発行) ドナルド・キーン『明治天皇』全4巻 新潮文庫(平成19年3月1日発行) 老獪ともいえる韜晦を含んだ、読み応えのある本である。