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澤田晃宏『ルポ技能実習生』明るい人生

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澤田晃宏『ルポ技能実習生』

 

絶望と、ほんのすこしの希望が、ないまぜになる、そんなルポルタージュである。

東京ばかりでなく、地方都市でも見かける技能実習生。本書は、特にベトナムからの技能実習生について書かれている。

 

近年、そして今現在(2021年12月)問題とされている技能実習生制度の「実態」は悲惨である。経済原理から諒とする向きがあり、人道的立場から否を突きつける向き。制度設計への批判なら、経済原理は認めていることになり、人道支援へ注力なら予算の出所を問わねばならない。

筆者がわざわざ「実態」とかぎかっこで括ったのは、本書に書かれていることが真実でも正解でもないからだ。最適解だなんて、よしてくれ。

ここには、著者が調べ、足で稼ぎ、みずから見聞きして感じ考えたことが書かれている。そしてその責任は著者が負う、という形で書かれている。地道で、手間がかかって、その労のわりに報いのすくない、けれども人間の人間らしい在り方。

個人が個人の責任において世界に対峙するような出来事はもう起きない世界をわれわれは生きている。「書く」とは、ひとつの出来事だったのだ、旧世界では。

そうした意味では、インターネットとそのSNSによって蹂躙されたこの新世界においては、稀有ではないが、最後の書籍と呼べるかもしれない一冊である。

 

本書に登場してくるベトナム人たちは概して明るい。

ひどい目にも遭っているし、中抜き、賄賂、違法行為への加担、制度の悪用など、問題といえば問題だらけではある。あまりの無法ぶりに嗤うしかないようなありさまである。まじめな識者なら、もっともらしく眉をひそめ、日本人に無上の価値を置いている愛国者なら、だからベトナムジンは、と言うだろう。

しかし、そこにあるのは日本人の疲弊した正義感では捌ききれないバイタリティである。少なくとも、疑似移民の、低賃金下級労働にまるまる経済の下部をあずけておいて、たっぷりその恩恵を受けているくせに、口だけの、金のかからぬ正義を唱えるような欺瞞は、彼らにはない。

日本円にして300万円を貯めれば、低学歴でも結婚し家を建て、農地を買い、暮らしてゆける、と彼らは言っている。そしてそれはひとつの「夢」であり「希望」であり、しかもひとつの確固たる人生の目標になっている。

いつでも目標のある人生は明るいのである。

もちろん、資本主義展開過程における時代的な明るさにすぎないとも言えるにしても、この明るさは、日本という国から見るにはあまりにまばゆい。まばゆく見えるほどに、日本は暗く停滞し、閉塞し、しかもそれを選択的に選んでいる。

いっぽうで、「300万円」のような世界を夢として、目標として持つべきであると唱え、それが日本を「復興」させると皆で思っている。

どうかしてるんじゃないか。

どうかしているのである。