2022-01-01から1年間の記事一覧
百華園主人 ジョゼフ・バルサモ 翻案の政治小説 民権運動と民衆 明治14年の政変 百華園主人 櫻田百衛、生年は安政4年とも6年とも云う*1。岡山に生まれ、上京して東京外国語学校にドイツ語を学んだが中退し、自由民権運動に身を投じた。さくらだももえ、と訓…
鳥島 漂流の理由 アメリカの捕鯨 『漂流』 鳥島 伊豆半島から南東に向かって太平洋上、伊豆諸島がある。 百余りの島嶼からなるその南端ちかくに浮かぶ鳥島は、その名のとおり鳥の島である。アホウドリの繁殖地として知られているが、植生は貧しい。若い火山…
あらすじ 成島柳北 福沢諭吉 佐倉宗五郎 長沼事件 明治14年の政変 『情海波瀾』は戸田欽堂の政治小説。 タイトルに「はじまり」とつけたのは明治文学の研究者柳田泉がそう言っているからで、筆者に定見があるわけではない。へりくつを言えば、一番とか嚆矢と…
久しぶりなので短いものを書く。 以前に村上春樹『タクシーに乗った男』をめぐって「共感とプラハの春」と題して書いた。書くには書いたが、タイトルにもある「タクシー」について回収していなかった。 dokusyonohito.hatenablog.com dokusyonohito.hatenabl…
井伏鱒二『ジョン万次郎漂流記』をめぐって
前回の最後に、福沢諭吉の「苦渋」と書いた。 ジャーナリストで思想家で教育者で、さまざまな肩書をもつ福沢だが、本業は学校経営者である。 念頭に、緒方洪庵とその適塾があったことは『福翁自伝』からもうかがいしれる。幕末、官軍東征の際ですら、一日も…
言わずと知れた江藤新平伝である。 いぜん筆者は、司馬遼太郎は時代小説家ではあるが歴史小説家ではないと書いた。 いまさら改める気はないものの、『歳月』は歴史小説に読める。 剣劇のたぐいが入ってしまうのは時代小説のお約束だから、言うだけ野暮だ。 …
明六社 明治6年にできたから明六社という。 横文字の専門家のあつまりだからと言って、妙な片仮名を使わなかったのはよかった。 この明六社が出版した雑誌を『明六雑誌』という。 「社」が「雑誌」を「出版」する草分けである。旧四六判という小冊子の体裁も…
〈大戦争〉 日本にとって世界大戦といえば、第二次世界大戦がまず頭に思い浮かぶが、世界史つまり西欧史では第一次世界大戦のことを言う。 英語でも、いまだに定冠詞をつけて“The Great War”〈大戦争〉と言う。 本書『世界文化小史』は、1920年に刊行された…
ヴィクトリア女王の時代 一身独立して一国独立すること 第一条 独立の気力なき者は国を思うこと深切ならず 第二条 内に居て独立の地位を得ざる者は、外にありて外国人に接するときもまた独立の権義を伸ぶること能わず。 第三条 独立の気力なき者は人に依頼し…
明治初年は文芸文学の空白地帯とされる。 それを埋めてあまりあったのが福沢諭吉『学問のすゝめ』や中村正直『西国立志伝』、他、明六社同人の啓蒙活動である。 その「実学」への偏重は、文学はともかく明治以降の「学問」のありかたを決めた。それについて…
坪内逍遥が「新旧過渡期の回想」*1と題して、明治初年から10年あたりまでの文学の動向を、懐古的に記している。 『小説神髄』を著して、ちょっと外に類例のない実践編を含む概括的な理論書をものした逍遥だから、目配りがきいていて、全体像をつかむことに優…
〈三条の教憲〉と教部省 啓蒙の時代と戯作 新聞と〈つづき物〉 高橋お伝の略歴 前回、『鳥追阿松』について書いた。これはもう、誰も読むひとがないだろうと思ったら、案外そうでもない。どこの誰が読んでいるんだろうと思えば興味は尽きないが、話も尽きな…
解題 あらすじ 毒婦物 解放令 毒婦の明治維新 解題 解題*1を始めに。 タイトルは『とりおいおまつかいじょうしんわ』と読む。 作は久保田彦作。掲載は仮名垣魯文の『假名読新聞』に明治10年12月10日から〈つづき物〉として連載された。今では珍しくない連載…
村上春樹『ハンティング・ナイフ』。『回転木馬のデッドヒート』最後の一篇になる。 dokusyonohito.hatenablog.com 最後だからというわけでもないが、発行年を見返したら、1984年、と書いてあった。偶然にちがいないが、オーウェルの小説がまだ一定のリアリ…
今回は『野球場』。そして今回も短く書く。 dokusyonohito.hatenablog.com だしぬけに話がはじまる。「野球場」のすぐそばに学生時代住んでいた青年の話である。「僕」が彼から会って話を聞く、そういう形式が提示される。 小説を書くこと 青年、彼は小説家…
思い出したように村上春樹の小説について。 とりあえず『回転木馬』を読み終えよう。 dokusyonohito.hatenablog.com 前に何を書いたかまるで覚えていないので読み返したら、羞恥にまみれた。読み返すものではない。 さて、『雨やどり』である。 明治初年の本…
今のところ、明治10年あたりまでを書こうとしている。 近代文学はまだまだ現れない。明治14年が一応の目途になるのではないかと目算を立てているが、これまで役に立ったためしのない目算だ。あてには出来ない。 文学でなく、歴史で語ればいくらか見やすい。…
承前。今回は、司馬遼太郎の『歳月』を思い出していただけると少しは分かりやすい。前回は大河ドラマ「青天を衝け」だと言った。ドラマでも小説でもないのが歴史というものだ。騙すつもりは毛頭ない。ただ蕭然としているだけだ。 dokusyonohito.hatenablog.c…
大河ドラマ「青天を衝け」に出てくるらしい。栗本鋤雲である。 もちろん、と言っては何だが、観ていない。観ていないが、見聞は読者のほうが広いだろうから少し安心して書く。 先だって栗本鋤雲の『鉛筆紀聞』を読んだ。ついでに『曉窻追錄』*1を読んでいた…
たとえば、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫と並べてみる。 近代文学史は言ってみれば、「私」をめぐる冒険、である。 その昔、柄谷行人が「他者」と呼んだものを、筆者の知能で正確に理解することは難しいが、「私」から外へ出ていった先で出会うもの、なら…
前回、うっかり太宰治と書いた。書いた手前そのままにもできないから、今回は太宰治。 dokusyonohito.hatenablog.com 今回取り上げた『燈籠』は、角川文庫の『女生徒』に入ってる。この一冊は、編集方針がはっきりしていて面白い。タイトルの『女生徒』含め…
明治初年の文学が、と書き出した時点で、だいぶ読むひとを遠ざけている。インターネットの特徴だが、好きなものだけ集まる仕組みなので、興味ないことは日々に疎い。村上春樹と書いたらずいぶん読まれるが、成島柳北と書いたらその数はぐっと減る。しかし、…
感想、序言に代えて 『風立ちぬ』年譜 物語構造論 堀辰雄と村上春樹 『風立ちぬ』 感想、序言に代えて 読み終えて、思ったのは江藤淳のことである。江藤淳といって若い方にどれくらい通じるのか不安になるけれども、思い出したのは『昭和の文人』にある堀辰…
SF小説が苦手である。嫌いではなく苦手。科学的な脳みそをどうやら備えていないらしい。筆者みずから、おのれの頭の悪さに呆れる、そんな作文である。 そんな中でも、再読はおろか幾たびも読み返しているのが、ダン・シモンズの『ハイペリオン』である。『ハ…
明治初年のベストセラー 漢文のような漢文 『東京新繁盛記』もくじ 服部撫松略歴 売れた文体 「学校」からはじまる開化 明治初年のベストセラー 明治のはじめころ、福沢諭吉『西国事情』『世界国盡(くにづくし)』は、いわゆる洛陽の紙価を高からしめたという…
文学史をたどり直そうという、まあまあだいぶ無謀な試みをしているので、かならずしもそれに含まれない本も多い。 それで思い出したように消化しきれない本を紹介する。筆者の備忘録とも言う。 今回は時代小説、ほか。 司馬遼太郎『国盗り物語』 宮城谷昌光…
前回の『鉛筆紀聞』でさらっと流して書いたが、 dokusyonohito.hatenablog.com 【国内法】 商人が刀剣や鉄砲を所持することはあるのか。殺人窃盗等の犯罪に関する法律。*パリ郊外において無届の銃使用の禁止のこと。 原文*1は以下のようになる。 「私に刀剣…
タイトルに漢字がおおすぎる。しかし今回、作文も漢字がおおめだ。申し訳ない。 栗本鋤雲『鉛筆紀聞』。くりもと・じょうん。えんぴつ・きぶん。と訓む。前回の作文で「栗本鋤雲」と引用して言い忘れた。藤村の、作文の先生である。 dokusyonohito.hatenablo…
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