誰かあの本を知らないか

読むことについて書かれた作文ブログ。

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2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

村上春樹『嘔吐1979』日記の疑念

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行) 「今は亡き王女のための」について書いてから間が空いた。 dokusyonohito.hatenablog.com 筆者はサルトルの『嘔吐』を読んでいた。なんと面倒なことだろう。今回取り上げる短編(あるいは…

樋口一葉『たけくらべ』音の読書、意味の読書

略歴 音の読書、意味の読書 ずっと気にしていて未だわからないのが一葉である。 略歴 樋口奈津一葉は明治5年3月15日東京府に生まる。*1 奈津、夏子、なつ、とも言うが、本名は奈津らしい。歌人としての雅号を夏子。新聞投稿には浅香のぬま子。春日野しか子。…

コンラッド『闇の奥』絶望的な想像力

コンラッド『闇の奥』岩波文庫(1985.1.25第一刷発行) 小説を読んでいるとたまに書籍とその書名が出てくる。 小道具としての場合もあるし、暗示だったり、象徴だったりする場合もある。 それが知った本なら親近感が湧くし、知らない本なら知見がひろがる。 ま…

中上健次『中上健次発言集成』神さまの名前

中上健次『中上健次発言集成』他 全5巻 第三文明社 著名な芸術家が、まだ神さまだった時代の発言集、対談集である。 日本と日本語の発生このかた、ずっと通底していたけれど、誰もそれに言葉を与えなかったため、存在しないとされてきたそれに言葉を与えた…

村上春樹『今は亡き王女のための』暴かれる読み方

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行)より、もくじ 亡き王女のためのパヴァーヌ 「今は亡き王女のための」。タイトルはモーリス・ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』から採ったものだろう。ピアノ曲、管弦楽曲。「亡き…

読書術

「読書術」こんなタイトルの記事や書籍は多い。どれも素晴らしい内容が記してあると思う。読んだことはないから思うだけではある。 早わかり、なんてのも多い。結論をはじめに言うが、人間は早わからないものである。 早くわかれば、早く忘れる。また覚えら…

村上春樹『プールサイド』残酷な肉体

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行) 「プールサイド」。ひとことで言えば、ある種の身体論である。 こう書くと、何を言ったような気になるが、気のせいである。 少なくとも、本作は「論」として描かれていない。その描かれて…

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』読むことの帰する処

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行) まいにち同じはなしをしている。評論文、感想文もとより研究論文ではないが、さてこれなんだろうという作文である。筆者もわからない。筆者じしんが、よくわからなくなったところから書き…

村上春樹『タクシーに乗った男』共感とプラハの春(2)

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行) 前回、なぞかけのような終わり方をした。じつは筆者もわからないで書いているからである。 dokusyonohito.hatenablog.com 本来ならば、彼女という画廊オーナーの語りとなるべき、その絵を…

森鷗外『阿部一族・舞姫』疲れる「内面」

森鷗外『阿部一族・舞姫』新潮文庫(昭和43年4月20日発行) 「内面」は疲れる。 これを抱えて社会を右往し、あるいは左往する。夜には胸に抱えて眠りにつき、心理学の説くところによれば夢にさえ出るらしい。潔癖なものあり、醜悪なものあり、勝手に感動をもた…

佐藤賢一『カペー朝』『ヴァロア朝』『ブルボン朝』子供の読書

佐藤賢一『カペー朝』『ヴァロア朝』『ブルボン朝』講談社現代新書 どんな作品、著作であれ、まずは読者がいなければ話にならない。これは筆者の考えである。もちろん、どちらが、偉い、という話ではない。お客ではあっても、神仏のたぐいでは、まるでない。…

中島敦『山月記』誠実な自己批判

中島敦『李陵・山月記』新潮文庫(昭和44年9月20日発行) 言語は、といってややこしいなら、言葉は。言葉は、ひとびとの想念のなかに棲む。筆者は、中島敦『山月記』について書こうとしている。高校生の教科書や副読本にも出ているから、よく読まれた小説のう…

野中広務 辛淑玉『差別と日本人』悪人

野中広務 辛淑玉『差別と日本人』角川oneテーマ21(2009.6.10初版発行) この世に悪人はいるであろうか。人がひとりでは生きられない以上、必ず善人でさえ悪人とも手を結ぶしかないとすれば、それは悪人であろうか。それは善人であろうか。

村上春樹『タクシーに乗った男』共感とプラハの春(1)

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行) dokusyonohito.hatenablog.com プラハの春 「僕」は画廊をめぐって記事を書く、そんなライターの仕事をしているらしい。 とある取材先の画廊で、女性オーナーに「僕」は質問する。「あな…

村上春樹『レーダーボーゼン』象徴の不全

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』講談社(1985.10.15第一刷発行) 筆者、冷や汗のごときをかきながら読むしかなかった。捨てようが逃げようが、それで逃げおおせる読書ならやめちまうがいい。もちろん、われとわがこころに言い聞かせている。

村上春樹『羊をめぐる冒険』歌物語

村上春樹『羊をめぐる冒険』上下 講談社文庫 悪く言う気になればいくらでも悪くいえてしまう作家がいる。

村上春樹『国境の南、太陽の西』歌のわかれ

村上春樹『国境の南、太陽の西』講談社(1992.10.12第一刷発行) あんまり褒めるひともない小説。長編小説である。 それでも、筆者がなんど本を整理しても、捨てず、売らず、残っている。 熱心な読者にはなんだか裏切られたようなところがあり、そうでない読者…

村上春樹『ノルウェイの森』短めの告白

自己紹介

田山花袋『蒲団』うつろな内面

田山花袋『蒲団』岩波文庫(1930年7月15日第一刷発行) 田山花袋『蒲団』の感想。今さらか。今さらである。 主人公はみずからの内面を語るにたとえてツルゲーネフを引き合いに出す。なんのことであろう。ハウプトマンの『寂しき人々』だと言う。独白にしては…

黒い奥

人間は人間を恐れているのではないかと思って、古本を何冊か買った。いずれも世に知られた事件を扱ったものである。事件の詳細はだれでも調べられるであろうから省く。発行は2009年から2013年の間。昨日のような昔。

折口信夫『身毒丸』伝説、芸能

折口信夫『死者の書・身毒丸』中公文庫(1974.5.10初版発行) 学識とひとことで呼ぶにはあまりに該博な、直観と言ってしまうには射程がながくながく深度の深すぎる知性がある。そしてこの知性は、知性みずからによって観察され実験されつくされた感受性を備…

大杉栄『日本脱出記』「僕」の発生

大杉栄『日本脱出記』土曜社(2011.3.25初版第一刷発行) 筆者は本を読んでもわからないことが多い。菲才を恥じていると言えば健気にも聞こえるが、ようは無学なのである。それでも無学ながら考えて、それはひとつには、近代日本語じたいのもんだいなのでは…

三島由紀夫『近代能楽集』弱法師(よろぼし)

三島由紀夫『近代能楽集』新潮文庫(昭和43年3月25日発行) 能という演劇は、古典芸能の特徴で、どうしても衒学的なところがある。詩句の典拠を知らないと、なんのことやらさっぱり分からない。歌集、物語、説話、漢籍仏典、さらにその諸註釈書。そのうえで…

竹田いさみ『世界史をつくった海賊』帝国の曙

竹田いさみ『世界史をつくった海賊』ちくま新書(2011.2.10第一刷発行) 題目に「海賊」と書いてみて、なんだか面映ゆい。有名な漫画がちらついて、いたたまれない。気にしすぎか。

村田らむ『ホームレス消滅』ルポルタージュと良心

村田らむ『ホームレス消滅』幻冬舎(2020.5.28) 本書によれば、「ホームレス問題」は第一義には当然、社会弱者が困窮している状態を、同胞として見過ごすべきではなく、また社会の成員として労働と納税によって国家に参与させるべきだという、道義と法律に…

三島由紀夫『沈める滝』人工恋愛

三島由紀夫『沈める滝』新潮文庫(昭和38年12月5日発行) だしぬけで恐縮だが、筆者は文学がわからない。 小説、詩のたぐいがよくわからない。 それら創作が情感や情緒にかかわるものだとするなら、それらの欠落、未発達に由来して、言語芸術の門まえで立ち…

高木俊輔『維新史の再発掘ー相楽総三と埋もれた草莽たちー』敗者の歴史

高木俊輔『維新史の再発掘ー相楽総三と埋もれた草莽たちー』NHKブックス(昭和45年3月20日第一刷発行) 誰だって負け組にはなりたくない。この、「誰だって」という世界を私たちは生きている。辛いことだ。

田中彰『明治維新と西欧文明』可能性の文体

明治5年(1871)12月23日、岩倉具視を全権大使とした一行が横浜を発っている。 本書は、この岩倉使節団の報告書である『特命全権大使米欧回覧実記』(以下、『回覧実記』)を中心に、若き明治政府の要人たちが遭遇した〈西欧文明〉が何であったかを説いたもの…

ツヴァイク『人類の星の時間』まばゆさの近代

シュテファン・ツヴァイク 片山敏彦訳『人類の星の時間』みすず書房(1996.9.30第一刷発行) 今となっては想像もつかないことかもしれない。 <近代>がきらびやかで、目も眩むほどまばゆく、洋々たる前途を望ませた時代が存在する。

鈴木伸元『加害者家族』共感と想像力と好奇心

鈴木伸元『加害者家族』幻冬舎(2010.11.27初版) ルポルタージュの価値は、核心に迫ることではない。真実を伝えるとか、世論に訴えるとか、まして警鐘を鳴らすなんてことでもない。著者という責任主体者が、好奇心という野次馬根性といかに渡りあって、対決…