誰かあの本を知らないか

読むことについて書かれた作文ブログ。

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2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

H・G・ウェルズ『世界文化小史』世界最終戦争の顛末

〈大戦争〉 日本にとって世界大戦といえば、第二次世界大戦がまず頭に思い浮かぶが、世界史つまり西欧史では第一次世界大戦のことを言う。 英語でも、いまだに定冠詞をつけて“The Great War”〈大戦争〉と言う。 本書『世界文化小史』は、1920年に刊行された…

福沢諭吉『学問のすゝめ』第三編 パクス・ブリタニカの時代

ヴィクトリア女王の時代 一身独立して一国独立すること 第一条 独立の気力なき者は国を思うこと深切ならず 第二条 内に居て独立の地位を得ざる者は、外にありて外国人に接するときもまた独立の権義を伸ぶること能わず。 第三条 独立の気力なき者は人に依頼し…

福沢諭吉『学問のすゝめ』維新と腐敗

明治初年は文芸文学の空白地帯とされる。 それを埋めてあまりあったのが福沢諭吉『学問のすゝめ』や中村正直『西国立志伝』、他、明六社同人の啓蒙活動である。 その「実学」への偏重は、文学はともかく明治以降の「学問」のありかたを決めた。それについて…

坪内逍遥『河竹黙阿弥伝 序』歌舞伎の歴史

坪内逍遥が「新旧過渡期の回想」*1と題して、明治初年から10年あたりまでの文学の動向を、懐古的に記している。 『小説神髄』を著して、ちょっと外に類例のない実践編を含む概括的な理論書をものした逍遥だから、目配りがきいていて、全体像をつかむことに優…

仮名垣魯文『高橋阿伝夜刃譚』新聞連載のさきがけ

〈三条の教憲〉と教部省 啓蒙の時代と戯作 新聞と〈つづき物〉 高橋お伝の略歴 前回、『鳥追阿松』について書いた。これはもう、誰も読むひとがないだろうと思ったら、案外そうでもない。どこの誰が読んでいるんだろうと思えば興味は尽きないが、話も尽きな…

久保田彦作『鳥追阿松海上新話』毒婦の明治維新

解題 あらすじ 毒婦物 解放令 毒婦の明治維新 解題 解題*1を始めに。 タイトルは『とりおいおまつかいじょうしんわ』と読む。 作は久保田彦作。掲載は仮名垣魯文の『假名読新聞』に明治10年12月10日から〈つづき物〉として連載された。今では珍しくない連載…

村上春樹『ハンティング・ナイフ』歴史の終焉を切り裂くナイフ

村上春樹『ハンティング・ナイフ』。『回転木馬のデッドヒート』最後の一篇になる。 dokusyonohito.hatenablog.com 最後だからというわけでもないが、発行年を見返したら、1984年、と書いてあった。偶然にちがいないが、オーウェルの小説がまだ一定のリアリ…

村上春樹『野球場』奇妙な観察は彼に小説を書かせるか?

今回は『野球場』。そして今回も短く書く。 dokusyonohito.hatenablog.com だしぬけに話がはじまる。「野球場」のすぐそばに学生時代住んでいた青年の話である。「僕」が彼から会って話を聞く、そういう形式が提示される。 小説を書くこと 青年、彼は小説家…

村上春樹『雨やどり』幻想の向こうの娼婦

思い出したように村上春樹の小説について。 とりあえず『回転木馬』を読み終えよう。 dokusyonohito.hatenablog.com 前に何を書いたかまるで覚えていないので読み返したら、羞恥にまみれた。読み返すものではない。 さて、『雨やどり』である。 明治初年の本…

内田義雄『戦争指揮官リンカーン』明治日本の幸運な時間

今のところ、明治10年あたりまでを書こうとしている。 近代文学はまだまだ現れない。明治14年が一応の目途になるのではないかと目算を立てているが、これまで役に立ったためしのない目算だ。あてには出来ない。 文学でなく、歴史で語ればいくらか見やすい。…

栗本鋤雲『曉窻追錄』ナポレオンコード②

承前。今回は、司馬遼太郎の『歳月』を思い出していただけると少しは分かりやすい。前回は大河ドラマ「青天を衝け」だと言った。ドラマでも小説でもないのが歴史というものだ。騙すつもりは毛頭ない。ただ蕭然としているだけだ。 dokusyonohito.hatenablog.c…

栗本鋤雲『曉窻追錄』ナポレオンコード

大河ドラマ「青天を衝け」に出てくるらしい。栗本鋤雲である。 もちろん、と言っては何だが、観ていない。観ていないが、見聞は読者のほうが広いだろうから少し安心して書く。 先だって栗本鋤雲の『鉛筆紀聞』を読んだ。ついでに『曉窻追錄』*1を読んでいた…

大塚英志『日本がバカだから戦争に負けた』遅れたファン・レター

たとえば、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫と並べてみる。 近代文学史は言ってみれば、「私」をめぐる冒険、である。 その昔、柄谷行人が「他者」と呼んだものを、筆者の知能で正確に理解することは難しいが、「私」から外へ出ていった先で出会うもの、なら…

太宰治『燈籠』女が独りで語ること

前回、うっかり太宰治と書いた。書いた手前そのままにもできないから、今回は太宰治。 dokusyonohito.hatenablog.com 今回取り上げた『燈籠』は、角川文庫の『女生徒』に入ってる。この一冊は、編集方針がはっきりしていて面白い。タイトルの『女生徒』含め…

仮名垣魯文『安愚楽鍋』娼妓の語りから太宰治へ

明治初年の文学が、と書き出した時点で、だいぶ読むひとを遠ざけている。インターネットの特徴だが、好きなものだけ集まる仕組みなので、興味ないことは日々に疎い。村上春樹と書いたらずいぶん読まれるが、成島柳北と書いたらその数はぐっと減る。しかし、…

堀辰雄『風立ちぬ』構造の向こうへ

感想、序言に代えて 『風立ちぬ』年譜 物語構造論 堀辰雄と村上春樹 『風立ちぬ』 感想、序言に代えて 読み終えて、思ったのは江藤淳のことである。江藤淳といって若い方にどれくらい通じるのか不安になるけれども、思い出したのは『昭和の文人』にある堀辰…

金子光晴『人間の悲劇』SF小説から

SF小説が苦手である。嫌いではなく苦手。科学的な脳みそをどうやら備えていないらしい。筆者みずから、おのれの頭の悪さに呆れる、そんな作文である。 そんな中でも、再読はおろか幾たびも読み返しているのが、ダン・シモンズの『ハイペリオン』である。『ハ…

服部撫松『東京新繁昌記』明治初年のベスト・セラー

明治初年のベストセラー 漢文のような漢文 『東京新繁盛記』もくじ 服部撫松略歴 売れた文体 「学校」からはじまる開化 明治初年のベストセラー 明治のはじめころ、福沢諭吉『西国事情』『世界国盡(くにづくし)』は、いわゆる洛陽の紙価を高からしめたという…

誰かこの本を知らないか【5冊紹介】時代小説ほか

文学史をたどり直そうという、まあまあだいぶ無謀な試みをしているので、かならずしもそれに含まれない本も多い。 それで思い出したように消化しきれない本を紹介する。筆者の備忘録とも言う。 今回は時代小説、ほか。 司馬遼太郎『国盗り物語』 宮城谷昌光…

ラガッシュ『狼と西洋文明』オオカミの社会史

前回の『鉛筆紀聞』でさらっと流して書いたが、 dokusyonohito.hatenablog.com 【国内法】 商人が刀剣や鉄砲を所持することはあるのか。殺人窃盗等の犯罪に関する法律。*パリ郊外において無届の銃使用の禁止のこと。 原文*1は以下のようになる。 「私に刀剣…

栗本鋤雲『鉛筆紀聞』島崎藤村の作文の先生

タイトルに漢字がおおすぎる。しかし今回、作文も漢字がおおめだ。申し訳ない。 栗本鋤雲『鉛筆紀聞』。くりもと・じょうん。えんぴつ・きぶん。と訓む。前回の作文で「栗本鋤雲」と引用して言い忘れた。藤村の、作文の先生である。 dokusyonohito.hatenablo…

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ヴェルヌ『八十日間世界一周』時間の旅行

一気呵成に読むがいい。そんな小説である。科学小説の祖で、児童文学の傑作。世界じゅうでどれほどの人がそれぞれの言語で読んだか知れない古典的名作。いっぽうで、フランス植民地主義・帝国主義の思想が反映していて、資本主義経済観念の、権化、のように…

誰かこの本を知らないか【5冊紹介】

プロレタリア文学とか言っていると、じぶんが何時代のにんげんか怪しくなってくるので、今回はちょっと違うことを書く。 毎日、小説の胡乱な感想を書いているから、筆者が小説好き、下手のもの好きだと思われるかもしれないが、そうでもない。前にもいったが…

中野重治『村の家』転向をめぐって

〈転向の定義〉鶴見俊輔 『村の家』成立の時代情勢① 『村の家』の内容 知識人と日本の民衆 社会主義運動からの獄中転向 父孫蔵との相克 知識人と日本の民衆 社会主義運動からの獄中転向 父孫蔵との相克 『村の家』成立の時代情勢② 「罠」とは何か 父子にとっ…

石原慎太郎『太陽の季節』読まれること

石原慎太郎『太陽の季節』新潮文庫(昭和32年8月5日発行) 石原慎太郎が亡くなったという。 筆者が今の世に生きている証明というわけでもないが、少し書く。 『太陽の季節』を読み直してみた。かつて読んだときに記憶していた、鮮やかさ、はちょっと見当たらな…

村上春樹『風の歌を聴け』転向をめぐって②

村上春樹『風の歌を聴け』講談社文庫1982年7月15日第一刷発行 前回の記事を書き直したが、どうもわかりにくい。だしぬけに〈転向〉と書いたのがいけなかった。 dokusyonohito.hatenablog.com このブログは行きがかり上、村上春樹の作品を少しばかり取り上げ…

中島敦『李陵』転向をめぐって①

中島敦『李陵』について。転向文学の一つとして読む。